2017年6月、次女のコッタは、アメリカンスクールの高校を卒業した。秋からは、アメリカの美大School of Art Institute of Chicago (SAIC) に入学が決まっていた。小さい頃から、いつもいつも絵を描いていた子で、これからアートに集中していけることを、心待ちにしていた。高校生になってからは毎夏、アメリカのアートサマースクールに参加したり、いくつもの美大訪問をしたりして、どこの美大に行くかを考えていた。受験のためのポートフォリオも準備してきた。いくつか合格したなかから、最終的に、奨学金とオランダ研修のオファーのあったSAICに決定して、この夏は意気揚々としていた。
私は、80年代にカリフォルニアのArt Center College of Designでイラストレーションを専攻し、卒業後は、東京に戻ってフリーで仕事を始めた。あの頃のバブル景気のおかげで、ポスターや本の装画、雑誌の挿絵など、業界にはイラストレーションの仕事があふれていた。卒業したての私でも、次から次へと仕事の依頼がきた。
そのバブル景気にかげりがでて、日本国中でイラストレーションの仕事が激減してきた頃、私は二人の娘の子育てに追われるようになり、そのまま22年間も「開店休業」だった。
今、子育ても終了し、私もイラストレーションの仕事にぼちぼち戻ろうかと考えていた。やる気と時間はあっても、業界はいつの間にかすっかり変わってしまって、どこから手をつけて良いのかもわからない。コッタは「人の注目を集めるにはインスタが良い」と言うので、早速アカウントを作ってみた。カリカチュアを載せたら、その俳優やセレブのファンがフォローしてくれるだろうかと思って、いくつか描いてみた。似顔絵は特徴を掴むのが難しい。「これ似てる?」「これ誰だと思う?」と、家族に確認しながら描く。
夏休み、「一緒に描こう」とコッタを誘った。さて誰を描こうか、となったが、まずは思いついたのが、少し前に一緒に観に行ったラ・ラ・ランドの主人公達だった。あの映画は色彩が素晴らしかった。コッタはエマ・ストーンが着ていた黄色いドレスに憧れて、古着屋で似たようなのを見つけてきたほどだった。
二人でこうやってチャレンジしながら描くのは、楽しい。絵を並べてFacebookに載せたら、ママ友達に羨ましがられた。秋にはコッタはアメリカの美大に行ってしまい、もうこんな機会はないだろうと思うと、寂しくなる。
まさかこの時は、コッタがSAICを一学期でやめてしまうとは思っていなかった。クリスマス前にコッタは帰国し、もう一度、一緒に描く機会はやってきた。(つづく)