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 ショートポーズのデッサン会があった後、夕方から始まる第二部は2時間のロングポーズだった。

 デッサン用の画材一式に加えてさらに油彩道具一式を運び歩くのは、いくら二人で運ぶとはいえ大荷物になってスタジオまで行けるかどうか…出掛ける際に玄関で断念して、とにかく荷物を減らそうと考えた末、普段の油彩道具を諦め、今日はコッタは白と黒のアクリル絵の具に筆を数本で、私はサクラクレパスで描いてみることにした。

 昔から私は新しい画材を試してみよう、というチャレンジ精神が欠けていると思う。「重たくて持って行くのが苦しいから、いつもの油絵を諦めた」というのは、はからずも良い機会となった。

 サクラクレパス20色入りは、油絵よりもずっと早く描ける。紙の上で色を重ねると、けっこう欲しい色が生み出せて、着物の色も悪くない。安上がりで、どこでも手に入るし、何と言っても軽い。クセになりそう。

  • Writer: 石井みき
    石井みき

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 モデルは、Tokyo Artists League of Life Drawing (東京アーティスト同盟人物デッサン会)の主催者のNaomiさん。彼女自身もパステル画を描くアーティストなので、ポーズや背景をいろいろ工夫してセッティングしてくれた。


 コッタは、今週は「影に大胆な色を入れてみる」「エッジのコントロール」の2点の研究をしてきた。手や布も描きたいと、ポーズが始まると同時にグングン描いていく。参考にしたいアーティストをインスタでチェックしながら、勉強熱心だ。

 私のほうは、今週一番の課題は「似せる」こと。前半の2時間は、下描きをじっくり描くことに決めてきた。アンティーク風のゴージャスなドレスも描きたかったけれど、4時間では顔をF10のサイズに描くのが精一杯だった。


 母娘ふたりで、このスタジオに毎週通うようになってから、ふたりの作風がだんだん別の方向に変化してきたように思う。

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 先週に引き続き日曜日の昼前、コッタと私は入谷駅近くのスタジオへ向かった。油絵の道具を二人分入れたスーツケースを引きずって行くので、近所の人から「お揃いで、旅行ですか?」と聞かれた。描いている時間は計4時間程度だが、休息時間、準備と片付けの時間もあり、帰りは最終バスに間に合わないほど遅くなってしまう。ちょっとした小旅行のようだ。

 今回はモデルに向かって左側(ライトのあたる側)から描きたかったので、30分早く到着し、スタジオのドアが開くと同時に、場所を確保した。絵の具を二人でシェアしているので、私達は隣同士で座りたい。入室時はちょっとした席取り合戦のようになる。

 今日は顔を描いてみようと、決めていた。このところ毎日YouTubeやインスタで世界中のアーティストのHow toものを見て油彩画の研究をしている。研究というか、見とれているばかりなのだが。世界的に絵のレベルが上がっているのか、それとも、インターネットの発達のおかげて、今まで隠れていた才能あるアーティスト達が目につくようになったからなのか、検索していると、次から次へと目を見張る素晴らしい作品に出逢う。

 アーティストによってポートレイトの描き始め方はいろいろのようで、私はその中でも一般的な、まずは茶系一色の下描きをすることにした。動画を見ながらイメージトレーニングして、準備万端のつもりだったのだが、実際にスタジオで白いキャンバスの前に座ってみると、どこからどう始めたらいいのか、最初の20分ポーズは焦るばかりで、あまりカタチが決まらないまま終わってしまった。

 コッタは、この最初のポーズをささっと決める。人物や静物や風景を見てスケッチするのは、コッタのほうがずっとうまい。小さい頃からそうだった。

 私は「まず目の位置がここ。そうすると鼻の位置はこの距離にあって、そこから影はここまで…」と考えながら、目で測りながら、一カ所ずつポイントを決めていき、描いては消し、また描いては消し、という作業を繰り返していく。コッタはこれをせずに、速いスピードで、見たとおりに描いていく。隣りからコッタのさっさ、さっさと筆を動かす音が聞こえてくる。

 20分のポーズが、合計12回ある。半ばを過ぎても、今日はコッタも私も、モデルと全然似てない。どう直せば良いのかわからないまま、時間切れ。やっぱり難しかった。

 帰りの電車の中で、二人とも自然とインスタで名画を検索し合っていて、「こんな風に描けるようになりたいね〜」と、ため息をついていた。

 最近四六時中、絵の話ばかり。つくづく幸せだなぁと思う。 





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