• 石井みき

油彩ポートレイト - 男性モデル


 日比谷線の入谷駅まで、電車の乗り継ぎにも慣れて、今週もまた母娘でスタジオにやって来た。

 モデルはフェミニンな雰囲気をもった、すらっとした男性。テカテカの白いシャツも、描くのが難しそうだ。

 ポーズの始まる30分前から画材を広げて準備をする。いつもなら早々に人が集まり、ぎゅうぎゅう詰めの状態で、重なり合って三脚を広げるのだけれど、なぜかこの日は参加者が少ない。主催者のNaomiさんが、「男性モデルなら描きたくないって言う人が多いんですよ。美女だけしか描きたくないって」と教えてくれた。

 えーっ!? そんなの初めて聞いた! 日本特有?不思議な現象だけれど、とにかく空いていて私達にとっては描きやすくてラッキー。

 今までもそうだったけれど、コッタのほうが、モデルによく似せて描いている。私のは、どうやら鼻の長さを、いつも短く描いてしまうようだ。

 最近、YouTubeで、Prokoという似顔絵レッスンを見ている。とても順序よく説明していて、役に立つアドバイスが多い。「数秒間、その人の顔を見て、覚える。それから、記憶だけで描いてみる、という訓練をすると良い」というのがあった。それに習って私は、暇さえあれば人の顔を思い出してみることにしている。顔の部分をひとつずつ、目はこう、鼻はこう、口はこう…と、思い浮かべてみる。

 誰かの顔を思い浮かべた時、その顔は、私の後頭部にくっついている感じがする。それが、モヤモヤとした画像なので、なんとか鮮明になるように、集中してみる。集中して、頭の後ろのほうから、こめかみのあたりで画像を再現しようと試みる。

 日本語では「脳裏」、英語でも"back of my mind"という表現があるけれど、「よく言ったもんだな〜」と実感する。確かにそれがピッタリな言葉で、その脳裏をかすめているものを、がっちり捕まえる訓練が必要なのだと思う。思い出したと思っても、紙に描こうとすると、なぜか、あとかたもなく消えてしまう。

 生物学的に正しくないだろうけれど、私の感覚としては、脳の後ろにある「記憶の画像」を、脳の前のほうにを引っ張ってくる。それを、「目のビーム」で紙に映写する、という作業…これができるようになると、ソックリな絵が描けるのではないか、という気がしている。